大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)711号 判決

被告人 仲畑憲一

〔抄 録〕

論旨第三点について。

惟うに起訴状に公訴事実を記載するについて訴因を明示するには他の訴因と紛れない程度に具体的に犯罪の日時、場所、方法、目的物等を記載すれば足るものと解すべく而して窃盗罪は他人の支配に属する物件を不正領得の意思を以て自己の支配内に移すことによつて成立するものであるからその物件の所持者の氏名が判明しない場合は本件起訴状の如く氏名不詳者所有の云々と表示するも一向差支なく、その他本件起訴状を検するに訴因は特定されており、被告人の防禦権行使に毫も不利益を及ぼすことなく固より本件起訴状を無効とすべき限りでない。従つて原審が被告人に対する本件起訴状を有効と認め審理判決したことは当然であつて、原審の訴訟手続に所論の如く審判の請求を受けない事件について判決した違法あるものと非難することはできない。論旨は理由がない。

論旨第四点について。

訴訟記録に徴すると、原審弁護人が原審第三回公判において本件起訴状は公訴事実に被害者の氏名を記載せず従つて該起訴状は訴因が特定せられないから無効であると主張し公訴棄却の請求をしたことは認められるが、かかる請求は刑事訴訟規則第二百五条の三に規定する異議の申立と解すべきでなく、単に公訴提起手続の無効を理由として裁判所に対し速かに公訴棄却の判決あるを相当と思料する旨法律上の意見を述べ職権の発動を促したものと解すべきである。従つて前記原審弁護人の請求に対し原審が所論刑事訴訟規則の規定に添う決定をしなかつたからとしても所論のように訴訟手続に関する法令違背を犯したものということはできない。所論引用の当裁判所の判例は本件に適切でない。論旨は理由がない。

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